芥川龍之介 ~ 羅生門

closeこの記事は 4 年 7 ヶ月 1 日 前に投稿されたものです。間違いに気づいたらその都度修正していますが、今読んだらおかしな点もあるかもしれません。ご了承ください。
 ルーマニアって国の名前かと思っていましたが、本当はこういう意味だそうです。→ルーマニアルーマニアルーマニア
 今日は、日本が誇る芥川龍之介の代表作『羅生門』を、ルーマニアの人向けに翻訳してみようかと思います。まずは原文から。
羅生門  芥川龍之介
 ある日の暮方の事である。一人の下人(げにん)が、羅生門(らしょうもん)の下で雨やみを待っていた。  広い門の下には、この男のほかに誰もいない。ただ、所々丹塗(にぬり)の剥(は)げた、大きな円柱(まるばしら)に、蟋蟀(きりぎりす)が一匹とまっている。羅生門が、朱雀大路(すざくおおじ)にある以上は、この男のほかにも、雨やみをする市女笠(いちめがさ)や揉烏帽子(もみえぼし)が、もう二三人はありそうなものである。それが、この男のほかには誰もいない。
【中略】
 作者はさっき、「下人が雨やみを待っていた」と書いた。しかし、下人は雨がやんでも、格別どうしようと云う当てはない。ふだんなら、勿論、主人の家へ帰る可き筈である。所がその主人からは、四五日前に暇を出された。前にも書いたように、当時京都の町は一通りならず衰微(すいび)していた。今この下人が、永年、使われていた主人から、暇を出されたのも、実はこの衰微の小さな余波にほかならない。だから「下人が雨やみを待っていた」と云うよりも「雨にふりこめられた下人が、行き所がなくて、途方にくれていた」と云う方が、適当である。その上、今日の空模様も少からず、この平安朝の下人の Sentimentalisme に影響した。申(さる)の刻(こく)下(さが)りからふり出した雨は、いまだに上るけしきがない。そこで、下人は、何をおいても差当り明日(あす)の暮しをどうにかしようとして――云わばどうにもならない事を、どうにかしようとして、とりとめもない考えをたどりながら、さっきから朱雀大路にふる雨の音を、聞くともなく聞いていたのである。
【中略】
 老婆の話が完(おわ)ると、下人は嘲(あざけ)るような声で念を押した。そうして、一足前へ出ると、不意に右の手を面皰(にきび)から離して、老婆の襟上(えりがみ)をつかみながら、噛みつくようにこう云った。 「では、己(おれ)が引剥(ひはぎ)をしようと恨むまいな。己もそうしなければ、饑死をする体なのだ。」  下人は、すばやく、老婆の着物を剥ぎとった。それから、足にしがみつこうとする老婆を、手荒く死骸の上へ蹴倒した。梯子の口までは、僅に五歩を数えるばかりである。下人は、剥ぎとった檜皮色(ひわだいろ)の着物をわきにかかえて、またたく間に急な梯子を夜の底へかけ下りた。  しばらく、死んだように倒れていた老婆が、死骸の中から、その裸の体を起したのは、それから間もなくの事である。老婆はつぶやくような、うめくような声を立てながら、まだ燃えている火の光をたよりに、梯子の口まで、這って行った。そうして、そこから、短い白髪(しらが)を倒(さかさま)にして、門の下を覗きこんだ。外には、ただ、黒洞々(こくとうとう)たる夜があるばかりである。  下人の行方(ゆくえ)は、誰も知らない。
(大正四年九月)
 さて、いきなりルーマニア語に翻訳するのもきついので、まずは大阪弁で読んでみましょう。
羅生門  芥川龍之介
 ある日の暮方の事なんや。一人の下人(げにん)が、羅生門(らしょうもん)の下で雨ちゃんやみを待っとった。  広い門の下には、この男のほかにどなたはんもおらへん。そやけど、所々丹塗(にぬり)の剥(は)げた、大きな円柱(まるばしら)に、蟋蟀(きりぎりす)が一匹とまっとる。羅生門が、朱雀大路(すざくおおじ)にある以上は、この男のほかにも、雨ちゃんやみをする市女笠(いちめがさ)や揉烏帽子(もみえぼし)が、もう二三人はありそうなもんなんや。それが、この男のほかにはどなたはんもおらへん。
【中略】
 作者はさっき、「下人が雨ちゃんやみを待っとった」と書いたちうわけや。せやけどダンさん、下人は雨ちゃんがやんそやけど、格別どないしょと云う当てはあらへん。ふだんやったら、勿論、主人の家へ帰る可き筈なんや。所がその主人からは、四五日前に暇を出されたちうわけや。前にも書いたように、当時京都の町は一通りやったらず衰微(すいび)しとった。今この下人が、永年、使われとった主人から、暇を出されたのも、実はこの衰微の小さな余波にほかいなりまへん。やから「下人が雨ちゃんやみを待っとった」と云うよりも「雨ちゃんにふりこめられはった下人が、行き所があらへんから、途方にくれとった」と云う方が、適当なんや。その上、今日の空模様も少からへんし、この平安朝の下人の Sentimentalisme に影響したちうわけや。申(さる)の刻(こく)下(さが)りからふり出した雨ちゃんは、いまんなっても上るけしきがあらへん。ほんで、下人は、何をおいても差当り明日(あす)の暮しをどうにかしたろおもて――云わばどうにもならへん事を、どうにかしたろおもて、とりとめもへん考えをたどりながら、さっきから朱雀大路にふる雨ちゃんの音を、聞くともなく聞いとったのなんや。
【中略】
 老婆の話が完(おわ)ると、下人は嘲(あざけ)るような声で念を押したちうわけや。そないにして、一足前へ出ると、不意に右翼の手を面皰(にきび)から離して、老婆の襟上(えりがみ)をつかみながら、噛みつくようにこう云ったちうわけや。 「では、己(わし)が引剥(ひはぎ)をしたろおもて恨むまいな。己もそうせな、饑死をする体なんや。」  下人は、すばやく、老婆の着物を剥ぎとったちうわけや。ほんで、足にしがみつこうとする老婆を、手荒く死骸の上へ蹴倒したちうわけや。梯子の口までは、僅に五歩を数えるばっかりなんや。下人は、剥ぎとった檜皮色(ひわだいろ)の着物をわきにかかえて、またたく間に急な梯子を夜の底へかけ下りたちうわけや。  ちーとの間、死んやように倒れとった老婆が、死骸の中から、その裸の体を起したんは、ほんで間もなくの事なんや。老婆はつぶやくような、うめくような声を立てながら、まだ燃えとる火の光をたよりに、梯子の口まで、這って行ったちうわけや。そないにして、そこから、短い白髪(しらが)を倒(さかさま)にして、門の下を覗きこんや。外には、そやけど、黒洞々(こくとうとう)たる夜があるばっかりなんや。  下人の行方(ゆくえ)は、どなたはんも知らん。
(大正四年九月)
 さあ、いよいよ“声に出して読みたいルー語”です。感情を込めてお読み下さい。
羅生門  芥川龍之介
 ある日のイーブニングの事である。一人の下人げにんが、羅生門らしょうもんの下で雨やみを待っていた。  ワイドな門の下には、この男のほかに誰もいない。ただ、所々丹塗にぬりげた、大きなコラムまるばしらに、蟋蟀きりぎりすが一匹とまっている。羅生門が、朱雀メインストリートすざくおおじにある以上は、この男のほかにも、雨やみをする市女笠いちめがさ揉烏帽子もみえぼしが、もう二三人はありそうなものである。それが、この男のほかには誰もいない。
【中略】
 作者はサムタイムアゴー、「下人が雨やみを待っていた」と書いた。しかし、下人は雨がやんでも、格別どうしようと云う当てはない。ふだんなら、勿論、マスターの家へゴーバックする可き筈である。所がそのマスターからは、四五日前に暇を出された。前にも書いたように、当時京都の町は一ストリートならず衰微すいびしていた。今この下人が、ロングタイム、使われていたマスターから、暇を出されたのも、実はこの衰微の小さなメモリーにほかならない。だから「下人が雨やみを待っていた」と云うよりも「雨にふりこめられた下人が、行き所がなくて、ウェイにくれていた」と云う方が、適当である。その上、トゥデイウェザーも少からず、この平安朝の下人の Sentimentalisme にエフェクトした。さるこくさがりからふり出した雨は、いまだに上るけしきがない。そこで、下人は、何をおいても差ヒット明日あすの暮しをどうにかしようとして――云わばどうにもならない事を、どうにかしようとして、とりとめもない考えをたどりながら、さっきから朱雀メインストリートにふる雨の音を、聞くともなく聞いていたのである。
【中略】
 オールドウーマンの話がおわると、下人はあざけるような声で念をプッシュした。そうして、ステップ前へ出ると、サドンに右の手を面皰にきびからパートして、老婆の襟上えりがみをつかみながら、噛みつくようにこう云った。 「では、おれ引剥ひはぎをしようと恨むまいな。己もそうしなければ、饑死をする体なのだ。」  下人は、すばやく、老婆の着物をティアーオフしとった。それから、足にしがみつこうとするオールドウーマンを、手荒くボディーの上へ蹴倒した。梯子の口までは、僅に五歩をカウントするばかりである。下人は、ティアーオフしとった檜皮色ひわホエアろの着物をわきにかかえて、またたく間に急な梯子を夜の底へかけゲットオフした。  しばらく、死んだようにブレイクダウンしていた老婆が、ボディーの中から、その裸の体をレイズしたのは、それから間もなくの事である。オールドウーマンはつぶやくような、うめくような声を立てながら、まだバーンしている火の光をたよりに、梯子の口まで、這って行った。そうして、そこから、ショート白髪しらがさかさまにして、門の下をルックインしこんだ。外には、ただ、黒洞々こくとうとうたる夜があるばかりである。  下人の行方ゆくえは、誰も知らない。
(大正四年セプテンバー)
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・ ・ ・
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1件のコメント »
  1. 羅生門

    羅生門羅生門*羅生門(らせいもん、らしょうもん)は、平安京の大門羅城門の後世の当て字。羅城門は近代まで羅生門と表記されることが多かった。*羅生門(らしょうもん)は、観世信光作の謡曲。羅生門に巣くう鬼と戦った渡辺綱の武勇伝を謡曲化したもの。

    コメント by ゆうなのblog — 2007年7月25日 06:37

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