ドストエフスキー ~ カラマーゾフの兄弟(亀山郁夫・訳)

closeこの記事は 4 年 4 ヶ月 2 日 前に投稿されたものです。間違いに気づいたらその都度修正していますが、今読んだらおかしな点もあるかもしれません。ご了承ください。
 哲学者ウィトゲンシュタインが「最低でも50回は精読した」と言い、全文を諳(そら)んじるほど細部を読み込んだ(゚д゚;)とされる、ドストエフスキーの『カラマーゾフの兄弟』、亀山郁夫さんの訳が読みやすいということで通勤の行き帰りで挑戦しました。途中で挫折することなく、何とか読み終えるのに4~5ヶ月かかりました。  確かに日本語としては読みやすいのですが、内容が奥深く、込められたメッセージも盛りだくさんで消化不良のところが多くあります。知人の解説によれば、この小説は「キリストはなぜ復活しなかったのか」「キリスト教の孕む矛盾点」「宗教と人間との関わり」などに明確な解答を与える世界文学の最高峰!だそうですが、そこまで理解するには背景となる当時のロシア情勢やキリスト教などの知識がないと無理だと思いました。また、癲癇(てんかん)を患い、シベリアで服役経験をもつ作者の自伝的要素も強いので、先に5巻目の「ドストエフスキーの生涯」や「解題」、また各巻末の「読書ガイド」を先に読んでから本文を読むと少しは理解の助けになるかと思います。
「父殺しの犯人は誰か?」「フョードル、ミーチャと、カテリーナ、グルーシェニカの恋の行方はいかに?」あるいは、「“わたしの主人公”アリョーシャと、彼との婚約を解消したリーザ、また、少年イリューシャやコーリャとその友達、との関わり」など、ストーリー的に読んでいて面白いところは沢山ありました。スメルジャコフとイワンとのやり取りなども引き込まれるものがあります。登場人物一人一人が個性的なのが、難解ながらも面白く読める魅力だと思います。他にもゾシマ長老やイッポリート検事、フェチュコーヴィチ弁護士など挙げればきりがありません。こちらにも書きましたが、それぞれの巻のしおりに、おもな登場人物の説明が書かれているので、光文社古典新訳文庫の良心に助けられました。
『カラマーゾフの兄弟』は、“エピローグ付、4部からなる長編小説”ですが、その前の「著者より」という序文にあるように、エピローグの後には更に“第二の小説”が書かれる予定でしたが未完で終わっています。小林秀雄はそれを「およそ続編というようなものがまったく考えられぬほど完璧な作品」と評していますが、訳者・亀山郁夫氏も以下のように「あとがき」で述べています。分からないなりに何となく共感できる気になるのは、それだけ氏の解説に説得力があるということでしょうか。
 わたしはいま、読者のすべてに代わって、この小説が未完に終わったことを惜しむ。未完の音楽は数知れずある。モーツァルトの『レクイエム』、マーラーの『第10番』──。しかしドストエフスキーの『カラマーゾフの兄弟』こそは、人類がついに手にできなかった、もっともまばゆい遺産のひとつであるにちがいない。ドストエフスキーの60歳の死は、その意味であまりにも惜しまれる、あまりにも早すぎる死であった。
 なお、同じく5巻目の解題から、この小説の構想メモが興味深かったので、少し長いですが引用させていただきます。
 知られるかぎり、『カラマーゾフの兄弟』の最初の稿が書きとめられたのは1878年4月のことだが、その構想のヒントを得たのははるかに古く、1850年代にさかのぼる。当時、オムスクの「死の家」に流刑中のドストエフスキーは、そこで出会った囚人仲間のドミートリー・イリインスキーから、次のような話を知らされることになった。  かつてトボリスクの国境大隊に勤務していたこの男は、父殺しの罪を着せられて、懲役20年の判決を言い渡され、オムスクの監獄ですでに何年間か徒刑の苦しみを嘗めていた。ところが、刑期半ばにして、実際の犯人はその弟であることが判明し、刑期を10年つとめた段階で釈放された。
(中略)
 彼(ドストエフスキー)は、現実的な意味ではまだ『カラマーゾフの兄弟』への結晶を夢見ることなく、次のようなメモを書きとめることになった。(中略)
「悲劇。トボリスクで、約20年間。イリ(イン)スキーの物語のようなもの。二人の兄弟、年老いた父親、一人には許婚(いいなずけ)がいて、その女に弟がひそかに横恋慕している。しかし、彼女は兄を愛している。にもかかわらず、兄の、若い少尉補は放蕩したり、愚行に走ったり、父親と喧嘩したりする。父親が消える。ニ、三日、なんの音沙汰もない。兄弟が遺産の話をしているときに、とつぜん、官憲が地下室から死体を探し出してくる。兄の犯行の証拠があがる(弟はいっしょに暮らしていなかった)。兄は裁判にかけられ、懲役を言い渡される……世間の連中には、犯人はだれかたしかなところはわからない。舞台は監獄。みんなが彼を殺そうとする。上官、彼は裏切らない。囚人たちは彼に兄弟の誓いを立てる。上官は父親を殺したことを責める。12年が経って、弟が彼に会いにやってくる。沈黙のうちにたがいに理解しあう場面。それからさらに7年、弟は官職についているが、苦しんでいて、ヒポコンデリー患者。妻に自分が殺したと言明する。『どうしてわたしに言ったの?』彼は兄のところに行く。妻も駆けつける。妻は懲役囚に何もいわず、夫を救ってほしいと膝を折って頼む。懲役囚は『おれはもう慣れっこになってしまった』と言い、和解する。『おまえはそんなことしなくとも、もう罰せられている』と兄が答える。弟の誕生日。客が集まっている。外に出る。おれが殺したのだ。みんなは精神錯乱だと思う。ラスト。ひとりは家に帰され、ひとりは罪人護送所に送られる。彼は解雇される……弟は兄に、自分の子どもの父親になってくれと頼む。『正しい道に踏み出したのだ』」
 ちょうど、聴きなれた曲のデモテープを知ったときのような新鮮な味わいでした。  この走り書きの内容は、シラーの戯曲『群盗』と驚くほど似ているそうですが、そう知ると『群盗』も読みたくなってきます。「はは~ん、このギターソロは、あの曲からヒントを得たな」と気づいて結構嬉しくなるときがありますが、果たして『群盗』から同質の発見が得られるかどうか、楽しみです。

Link: 読まずに死ねるかドストエフスキー~『「カラマーゾフの兄弟」続編を空想する』亀山郁夫著(評:山本貴光+吉川浩満)

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6件のコメント »
  1. SECRET: 0
    PASS: 74be16979710d4c4e7c6647856088456
    ご無沙汰です。スケスケのテンプレ、キレイですね@@。 【カラマーゾフの兄弟】とっても懐かしいです。中学時代に読書感想文に選んだ本は【罪と罰】でした。【カラマーゾフの兄弟】も読んだ記憶があるのに内容を覚えていないんですよね。世界の名作は大人になって再読すべきだなって思っている今日この頃です。

    コメント by kayo — 2007年10月17日 21:07

  2. SECRET: 0
    PASS: 6691fc7e69b32d0879c93714a75e5e9c
    コメントありがとうございます。
    kayoさんのテンプレートもかっこいいですね!
    見惚れてしまいました。

    中学時代に『罪と罰』ですか!私は大学合格時に読みましたが、内容を忘れてしまいました。下宿のオバチャンを殺してしまうんでしたっけ?

    ロシア文学は、日本の感覚からかけ離れている上に固有名詞がまず覚えにくいので読むのに苦労しますが、解説を聞いたうえで読むと結構肥やしになるかもしれません。
    歴史に残る名作は、名作たる理由がありますから、繰り返し読むに値すると思います。

    コメント by チャーリー432 — 2007年10月17日 21:36

  3. SECRET: 0
    PASS: 74be16979710d4c4e7c6647856088456
    こんばんは、はじめまして。^^
    「カラマーゾフの兄弟」、新訳が出たこともあって、新聞などで何かと話題になってますね~。
    村上春樹氏も愛読されているようで、私もチャレンジしてみようかと、何度か書店で手に取りましたが、二の足を踏んでいました。
    だけど時間をかけて読んでみたくなりました♪
    また遊びにきます。^-^

    コメント by ミナミマリノ — 2007年10月18日 18:09

  4. SECRET: 1
    PASS: f98901fcea43d7bb0908edee61e07472
    まんがなのですが、こういう本が出ていて、評判になっています。
    http://www.planetcomics.jp/index.php?itemid=851
    読んでいましたが、とても重厚な作品です。

    コメント by kika — 2008年5月15日 23:02

  5. SECRET: 0
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    コメント有難うございます(^^)ノ

    せっかくだから教えていただいたページ、公開いたします。
    http://www.planetcomics.jp/index.php?itemid=851

    深そうな内容ですね。機会があったら読んで見たいと思います。

    コメント by チャーリー432 — 2008年5月16日 12:23

  6. SECRET: 1
    PASS: f98901fcea43d7bb0908edee61e07472
    ええ。いろいろな読み方ができます。私もひとから勧められたのですが、何度も読み返しています。

    コメント by kika — 2008年5月17日 22:04

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