回文(4)

closeこの記事は 3 年 4 ヶ月 16 日 前に投稿されたものです。間違いに気づいたらその都度修正していますが、今読んだらおかしな点もあるかもしれません。ご了承ください。
 第1回は普通の回文、第2回はバッハの作品、第3回はモーツァルトの楽譜を見てきましたが、今回は会話の発言単位で「回文」となっている例です。

 出典は『ゲーデル、エッシャー、バッハ』の中にある「アキレスと亀の会話」。バッハの「蟹のカノン」が紹介されている章で、そこにはこの他にDNAの二重螺旋構造や間接的自己言及について、そしてゲーデルの字形的数論へと展開するようですが、難しそうながらも面白そうな話題ですね。まだ読んだことないので、いつか読んでみたいと思います。 → 『ゲーデル、エッシャー、バッハ』

エッシャーのだまし絵
エッシャーのだまし絵


なども見ていて楽しいし。

 以下、会話が回文となっている「アキレスと亀の会話」です。
いい日だな、アキ公。
アキレスまったくだ。
いいところであったよ。
アキレスぼくもそう思ったところさ。
それに申し分ない散歩日和だし。このままぶらぶら家まで歩いて帰ろうと思ってね。
アキレスほんとかい?歩くのが何よりいいらしいな。
ところできみは近頃ずいぶん溌剌としてるじゃないか、ほんとに。
アキレス嬉しいことをいってくれるね。
そうかね。どうだい、葉巻を一本やらないか?
アキレス君も俗物だなあ。この地域では、オランダびいきはそうとうに趣味が劣るんだぜ、そう思わないかい?
同調しかねるな、この場合は。しかし趣味といえば、君の大のお気に入りの画家、M・Cエッシャーの『蟹のカノン』、このあいだとある画廊でやっと見たよ。たった一個のテーマ、それ自体が後ろにも前にも進む網の目を、あれほど美しく巧妙に仕上げたのにはまったく感心するね。しかしぼくとしてはバッハのほうがエッシャーより上だという気がいつもするんだ。
アキレスどうかなあ。しかしひとつ確かなのは、ぼくの趣味の議論に頭を悩ませたりしないということだ。De gustibus non est disputandum. [趣味を論ずること能わざるなり。]
どんなふうなんだい、きみの年頃というのは?ぜんぜん悩みごとがないというのは本当かい?
アキレス正確に言えば、杞憂(きゆう)がないね。
同じものだと思うがね。
アキレスそれも庭訓(ていきん)ならの話だが、たいへんな違いさ。
おい、きみはギターを弾くんじゃなかったかい?
アキレスありゃぼくの友達だよ。あいつはしょっちゅう愚かな真似をするからな。しかしこっちはご免だ、要らんギターにさわるなんてのは!

(突然蟹がどこからかともなく現れ、片方のやや飛び出した黒い目を指さして、興奮しながらやってくる)

やあ、やあ!どうしているね?元気かい?見えるだろう、このこぶ、この腫れあがり?怒りん坊にちょうだいしたんだ。ふん!こんないい日だってのに。ぶらぶら公園を歩いててさ、イラン生まれのばかでかい男によじのぼったんだ-大熊みたいなやつでね-リュートを奏でてるじゃないか。身の丈3メートルの大男よ、いやまったく。こいつのところにすたこら行って、大空めがけてよじのぼり、やっと膝小僧を叩いて言ってみた。「失礼ながら、だんな、そのリュートの曲はマズルカでしたっけ、マズイナでしたっけ?」ところが、ああ!やつはユーモアのセンスがないときた-これっぽっちもありゃしない-そしてガツン!-やつはおれさまをふり払い、目に一撃くらわせやがるじゃないか!おれさまの性格がそうなら何蟹かまわずカニャローッと怒るところだが、そこはわが種族の由緒ある伝統、おれは後退りした。要するにわれわれは前進するとき後退する。それがわれわれの遺伝子さね、ぐるぐるぐるぐるまわるわけだ。それで思い出した-いつも考えているんだがね、「どっちが先にきたのか-蟹か、遺伝子か?」つまり「どっちがあとからきたのか-遺伝子か蟹か?」おれはいつも、ものごとをぐるぐるまわしてみるんだよ。それがわれわれの遺伝子だな、要するに。われわれは、後退するとき前進する。おっとっとっ!そろそろ行かなくちゃな-なんせこんないい日よりだ。蟹の人生をたたえて歌ってくれん蟹(かに)!ターター!オーレー(現れたときと同じに突然姿をくらます)
ありゃぼくの友達だよ。あいつはしょっちゅう愚かな真似をするからな。しかしこっちはご免だ、イラン・ギターにさわるなんてのは!
アキレスおい、きみはギターを弾くんじゃなかったかい?
それも提琴(ていきん)ならの話だが、たいへんな違いさ。
アキレス同じものだと思うがね。
正確に言えば、弓(きゆう)がないね。
アキレスどんなふうなんだい、きみの年頃というのは?ぜんぜん悩みごとがないというのは本当かい?
どうかなあ。しかしひとつ確かなのは、ぼくの趣味の議論に頭を悩ませたりしないということだ。De gustibus non est disputandum. [趣味を論ずること能わざるなり。]
アキレス同調しかねるな、この場合は。しかし趣味といえば、君の大のお気に入りの作曲家、J・Sバッハの『蟹のカノン』、このあいだとあるコンサートでやっと聴いたよ。たった一個のテーマ、それ自体が後ろにも前にも進む網の目を、あれほど美しく巧妙に仕上げたのにはまったく感心するね。しかしぼくとしてはエッシャーのほうがバッハより上だという気がいつもするんだ。
君も俗物だなあ。この地域では、オランダびいきはそうとうに趣味が劣るんだぜ、そう思わないかい?
アキレスそうかね。どうだい、葉巻を一本やらないか?
嬉しいことをいってくれるね。
アキレスところできみは近頃ずいぶん溌剌としてるじゃないか、ほんとに。
ほんとかい?歩くのが何よりいいらしいな。
アキレスそれに申し分ない散歩日和だし。このままぶらぶら家まで歩いて帰ろうと思ってね。
ぼくもそう思ったところさ。
アキレスいいところであったよ。
まったくだ。
アキレスいい日だな、亀公。

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