とどろき / 平成21年4月号 – 親のご恩のお話 ~ 為造悪業の恩

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仏説父母恩重難報経』には、親の大恩を次のように十種に分けて教えられ、
  1. 懐胎守護の恩
  2. 臨生受苦の恩
  3. 生子忘憂の恩
  4. 乳哺養育の恩
  5. 廻乾就湿の恩
  6. 洗潅不浄の恩
  7. 嚥苦吐甘の恩
  8. 為造悪業の恩
  9. 遠行憶念の恩
  10. 究竟憐愍の恩
その中の、「為造悪業の恩」について、
「若しそれ子のために止むを得ざる事あれば、自ら悪業を造りて悪趣に堕つることを甘んず」
と説かれています。 子どものためなら、自分に悪果が来るのを厭わず悪事を犯してしまう恩。また、時には、正邪の判断を見失ってしまう親心。 そういう親の恩を忘れずに、正しい道を進ませていただきたいと思わずにおれません。
 子供を愛するあまり、闇に迷ってしまうこともあります。吉川英治の『宮本武蔵』には、そんな母・お杉の姿が描かれています。  お杉の息子・又八は、武蔵と一緒に戦に出ますが、所属する軍が敗れて逃げ落ち、やがて、女と金と酒におぼれて、すがたをくらましてしまいます。  お杉婆さんは、息子を堕落させたのは武蔵だと思い込み、命を狙います。また、息子の婚約者であったお通が武蔵を慕って村を出ていくと、彼女の命をも奪おうとするのです。  そんなお杉が改心するのは、豪雨の中、お通を折檻した時でした。倒れたお通は血の気を失い、ピクリとも動かなくなります。 「お通っ……。わるかった。このばばが悪かったぞよ。ゆるしてたも。ゆ、ゆるして……たも」  ――どう思ったのか。  ばばは、いきなりお通の体を抱きあげてさけんだ。悔悟のいろが、ばばの面には溢れていた。 「恐しや、恐しやの。子ゆえの闇とは、この事か。わが子可愛さにひとの子には、鬼となっていたか……」(『宮本武蔵』円明の巻)  それからのお杉は、優しくお通を看病するようになりました。  お杉が人の命を狙う鬼となったのも、わが子かわいい親心からなのです。ここでいわれる「子ゆえの闇」とは、平安時代の有名な歌の心を指しています。 「人の親の心はやみにあらねども  子を思う道にまどいぬるかな」(藤原兼輔) "子をもつ親の心は、分別がないわけではないが、子供のことを思うと、闇夜の道に迷うように、思い迷ってしまう……"  校長がわが子を教員にするために賄賂を渡したり、母親が息子の借金返済のために職場の金を横領したりする事件がありました。決して許されないことですが、子供を案じるあまり正常な判断力を失ってしまうのが古今変わらぬ親の姿なのかもしれません。

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