東野圭吾~手紙

手紙(原作)
東野圭吾さんの作品は、他には、ドラマ化された『白夜行』と、直木賞受賞作品『容疑者Xの献身』、そして『赤い指』を読んだことがあります。どれも秀作ですが、この『手紙』は、その中でも一番心に残りました。
 最初、兄弟愛を描いた作品かと思いながら読んでいましたが、テーマは「偏見と差別」といったところでしょうか。それを象徴するかのごとく、あの名曲が効果的なメタファーとして使われているのが印象的です。
 物語は、弟思いの剛志が、意図せず老婆を殺してしまう場面から始まります。実は『赤い指』を読んだとき、「『容疑者~』のパクリではないか」と思ってしまったので、正直、「またこのパターンか」とも思いましたが、さすがは東野圭吾。その後、読者に大いなる難問を投げかけるのです。
 兄への複雑な思いを抱きつつ、進学、就職、恋愛など、必死に生きる弟の直貴。しかし、成功まであともう一歩、というところで「犯罪者の弟」という動かし得ぬ事実に行く手を阻まれる。読者は、兄から届く「ほのぼの」とした手紙に、次第に怒りを覚え、直貴に感情移入してゆきます。そして彼は、一大決心を……。
 とにかくストーリーがリアルなんですよね。いつ自分が事件の被害者になるか分からないし、加害者にもなり得る。あるいは身近な人間になるかも知れない。「そんな時、君ならどうする?」と筆者から問いかけられているようです。誰もが差別を嫌い、偏見を醜いものだと思っていながら、果たして潔癖な人間など存在するのだろうか?自分ならどうするだろうか?と考えずにおれませんでした。  視線を内側に向ければ、否定しきれない偽善的な自己、そして理想と現実のギャップを見せつけらるようです。
 この作品の登場人物は、皆、一生懸命、幸せを求めて生きています。特に、直貴は人一倍強く、逞しく自分の道を切り開いて進んでいるのです。しかし兄の犯した罪が弟にも影響を及ぼしてしまうのは、理不尽とは思いつつも、これが現実なのかと認めざるを得ません。  誰もが幸福を求めて生きているのに、そうなれない人間が出てしまうのはなぜか?  人の幸・不幸は何によって決まるのか?  差別や偏見のない社会など、実現可能なのか?  そもそも幸福とは一体何なのか?
 色々考えさせられる『手紙』でした。東野圭吾も難しいテーマに果敢に取り組んでいるなあ、とその執筆意欲に頭が下がるばかりです。(作品の多さにも)
 ちなみに私はこちらの装丁の方が好きですが、兄貴の文章が見える方も捨てがたいですね。温かみのある文字が、怒りのやり場を見失わせてしまう……(涙)



(参考) パンドラさんのブログ よしさんのブログ 扉のむこう 沖縄日和 (続きを読む…)

Filed under: ひ:東野圭吾  タグ: , , , , , , , , , , , , , , ,   charlie432 23:06  Comments (8)

村上春樹 ~ 『世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド』

世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド(上)世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド(下)
 村上春樹さんの作品は、かの有名な『ノルウェイの森』『1973年のピンボール』を読んだことがあるのですが、ハッキリってよく分かりませんでした。ノーベル賞受賞か?と騒がれたり、多くのファンがいるのは知っています。しかし、正直なところ、何が言いたいのか、何のために作品を書いているのか分からない、というのが村上春樹に対するイメージでした。とにかく、何が何を譬えているのかよく分からないのです。(ファンの方、ゴメンナサイ。私の読解力がないだけです。ただそれだけのことです)
 そのことを、ある先輩に言ったところ「そうか。じゃあ、これを読んでみたら?」と渡されたのが、この『世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド』だったのです。(ちなみに私が借りた本はこんな装丁です)
 いかにも村上春樹らしいタイトルだなあと読んでみると、いきなり、第1章から「面白い!」ではありませんか。え?何?良い意味で裏切られました。戸惑いさえ感じました。最初のうちは何が何だかよく分からないのですが、それでも面白いのです。グイグイ引き込まれました。これには驚きました。作品の面白さと同時に、自分が村上春樹を読めている事実が信じられませんでした。
 で、下巻の途中くらいまで読み進めると、それまでの謎がだんだん明らかにされ、推理小説で犯人が分かったような快感を味わうことが出来ます。「私」と「僕」との関係、「影」とは?「一角獣」とは?など、ハァ、良く練られているなあ、と関心しました。
 圧巻は、後半4分の1以降でした。最後、限られた時間での「私」の思考と、「僕」のとった行動に、“静かなる感情の高ぶり”とでもいうか、実に美しく崇高な感覚に包まれました。特に、
 私は声をあげて泣きたかったが、泣くわけにはいかなかった。涙を流すには私はもう年をとりすぎていたし、あまりに多くのことを経験しすぎていた。世界には涙を流すことのできない哀しみというのが存在するのだ。~
辺りからはグッと来るものがありました。そして最後の最後、
 降りしきる雪の中を一羽の白い鳥が南に向けて飛んでいくのが見えた。鳥は壁を越え、雪に包まれた南の空に呑みこまれていった。そのあとには僕が踏む雪の軋みだけが残った。
は、実に感動のエンディングだと思います。
 哲学的考察を、ミステリー、ファンタジー的な物語として表現した、村上春樹。この男はただ者ではない、と思わずにおれない1冊でした。未読の方は、是非ご一読を。
(参考) kakasiさんのブログ モコポコさんのブログ たなつねさんのブログ

Filed under: む:村上春樹  タグ: , , , , , ,   charlie432 20:01  Comments (6)

リリー・フランキー~東京タワー ~オカンとボクと、時々、オトン~

皆さん、こんにちは。
tokyo tower
 この本を読んだのは、昨年の6月頃でしたが、今でも読み終えたときの感動は、よく覚えています。2006年本屋大賞受賞作品ということで、当時、周りでもかなり話題になっていました。
 しかし正直なところ、最初は「そんなに良いのかなあ?普通の随筆みたいだけどなぁ……」と思いながら読んでいたのです。とりたてて何か事件が起きる訳でもない、単に、著者の少年時代の思い出が綴られているだけの作品だと思っていました。周り中が「この本はすごい!」と賞賛の嵐の中、自分だけ極端に読解力がないのか、と落ち込んだものです。
 ところが、半分ほど読んで、大きな事件が起きたのです!そう、「オカン」がガンの宣告を受けたのです。実は私の母も、数年前に大腸ガンで「半年の命」と宣告され、1年後に亡くなったのですが、そのときの記憶が鮮明に蘇って来ました。ガン患者の闘病って、皆同じ道を通るのかと思えるほど、とにかくうちの母と、リリーさんのオカンがあらゆる点でダブッて読めました。急激に病状が悪化するのではなく、一進一退を繰り返し、徐々に体力が衰えてゆく。わずかな希望を胸に、努めて明るく振る舞い、決してアキラメルことなく、我が子に無償の愛を与え続ける母親の偉大さに、涙せずにおれませんでした。満員の通勤電車で読んだのですが、本気で泣けて泣けて、実に困りました。
 子が親を、親が子を殺す事件が多い昨今、飾らず赤裸々に母親への想いを綴ったこの『東京タワー』は、私たちに人間の心を思い出させてくれる本です。まさに本屋大賞受賞にふさわしい作品と言えるのではないでしょうか。しかも、著者があのリリー・フランキーというのも心に深く突き刺さります。

With Latimer!:東京タワー ~オカンとボクと、時々、オトン~ erilovelycookingさんのブログ



こちらも泣けます   ↓ 『親のこころ』(木村耕一) 『親のこころ おむすびの味』(木村耕一)

Filed under: リリー・フランキー  タグ: , , , , ,   charlie432 20:11  Comments (6)
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