中西智海 / 親鸞教学入門(2)

(1)の続きです。

親鸞聖人と真実



 人間が宗教的になるということは、いままで見えなかったものが見えてくることになり、いままで感じられなかったものが感じられてくることになり、いままであたりまえであると思っていたことがおどろきであることがしられることであるといわれます。
 親鸞聖人は、この世を、この人生をだれよりも誠実に生きようとされた人であります。比叡山の山林の間につきさす強烈な光に照らされたとき、自分の真相がはっきりとみえてきたのであります。光が強ければ強いほど、闇の影は大きく浮彫りにされてきます。それは「地獄よりも地獄的」な現実の世界が知られてくるのであります。「地獄一定」の告白は誠実なたましいのおどろきのさけびであります。
 法然上人とのめぐりあいは、歴史的邂逅であったと同時に、歴史を超える常住の真実との邂逅でもありました。「地獄よりも地獄的である」といって龍之介は自殺したが、親鸞聖人は「地獄一定」の自己の由来は、我執のこころであることを教えられ、その自己をこそひるがえし、普遍の世界によみがえらせる常住の真実(弥陀の本願ととかれる)に根拠をもって生きてゆける世界を開き示されたのであります。(この親鸞聖人の信心のしくみについては別のところで詳細にふれるはずであります。)
 こうして、親鸞聖人にとっては、素顔のままの自分、すべての虚飾がはぎとられた自己のほんとうにすがたを仏智・大智が自己にとどいた、他力廻向の信心(如来からめぐまれた信心)によってあからさまになったのであります。
 このように仏智・大智の立場からあからさまになったほんとうの自己のすがたを、真宗では「機(すくいの対象)の真実」というのであります。
 親鸞聖人は本当の自己のすがたを
一切の群生海无始よりこのかた乃至今日今時にいたるまで、穢悪汚染にして清浄の心なし、虚仮諂偽にして真実の心なし(『教行信証』信巻)
と告白されています。その他、機の真実のすがたを「流転輪廻のわれら」「濁悪邪見の衆生」「煩悩成就のわれら」「常没流転の凡愚」などと告げられています。これらはすべて仏智の立場から、照らし破られた自己のほんとうのすがたの告白であることを忘れてはなりません。仏智の世界を知らない、一般の常識の世界や単なる法律や道徳のレベルでのことばではないことをくれぐれも注意しなければなりません。
 ともあれ、一瞬一瞬、生即死、死即生ともいうべき危機的存在であり、業縁のもよおしによって何をするかもわからない激変的存在としての私が「現」に「ここ」にいるのであります。それが私のほんとうのすがたなのであります。ありのままのすがたなのであります。これこそまさに自己の真実というに値するものであります。
 ところで、親鸞聖人にとって、ほんとうの自己を知らせたものは、この世のだれかではなかったし、まして自分ではなかったのです。自分は自分の背中をみることができないのですから、自分の前面を知ることができないのです。本当の自己をしらせたものはまさに「この世」を超えた、如来の本願として説かれる常住の真実であります。この世を超えるなどといいますと何か観念的でわからないといわれるかもしれませんが、我執の世界を超えている世界があるといってもよいのです。超えていればこそ、如来(真如から来生する)として強く自己と世界に働くものであります。
 ですから親鸞聖人にとって、ほんとうの自己を知らしめ、その自己と世界をこそ摂取不捨(おさめとって捨てない)するはたらきこそ、如来の本願として説かれる常住の真実の世界であったのであります。
 ここまできてはじめて、『歎異抄』の次のことばがうなずかれるとおもうのであります。
いづれの行もおよびがたき身なれば、とても地獄は一定すみかぞかし。弥陀の本願まことにおはしまさば、釈尊の説教虚言なるべからず。仏説まことにおはしまさば、善導の御釈虚言したまふべからず。善導の御釈まことならば、法然のおほせそらごとならんや。法然のおほせまことならば親鸞がまふすむね、またもてむなしかるべからずさふらうか。詮ずるところ、愚身の信心におきてはかくのごとし
 ほんとうの自己の真実(機の真実)を知らしめ、その自己(機)のためにこそ成就された法は「不顛倒・不虚偽」と説かれるはたらきとして躍動するのであります。如来の本願はそれでこそ、まことといわれるに値するものであります。
 如来の本願まことさは、本願みずからが証明するというよりほかにいいようのないものでありましょう。それは「地獄一定」と自己のほんとうのすがたを照破したもの、そして、そのためにこそ建立された弥陀の本願こそ、真実そのものであったといわねばなりません。そして、この弥陀の本願のまことは、釈尊・善導・法然と仏祖の伝統としてうけつがれ、ついに「愚身の信心」を成立させたのであります。ここに親鸞聖人の信心にこそ、「まこと」「真実」の具体的なすがたをみることができます。
『真実ということ』より7~11頁




つづく



【本】増井悟朗 / 念仏の雄叫び (後半)

前回の続きです。

「三度目の正直」ならぬ、「三度目の成仏」と題した章が圧巻でした。平成19年2月のご法話のテープを文章にしたもので、増補新版にあたって加えられた一篇です。

南無阿弥陀仏のおこころをかみ砕いてお話されており、蓮如上人が仰せられている

「信心獲得すというは、第十八の願をこころうるなり。この願をこころうるというは、南無阿弥陀仏のすがたをこころうるなり」(『御文章五帖目五通』)

の、大事のすがたを心得るという獲信が端的に示されています(「増補新版にあたって」より)。


弥陀成仏のこのかたは いまに十劫(じっこう)をへたまへり
法身(ほっしん)の光輪きはもなく 世(よ)の盲冥(もうみょう)をてらすなり

弥陀成仏のこのかたは いまに十劫とときたれど
塵点久遠劫(じんでんくおんごう)よりも ひさしき仏とみえたまふ

久遠実成(くおんじつじょう)阿弥陀仏 五濁(ごじょく)の凡愚(ぼんぐ)をあはれみて
釈迦牟尼仏(しゃかむにぶつ)としめしてぞ 迦耶城(がやじょう)には応現(おうげん)する

(親鸞聖人『浄土和讃』


三度の成仏とはどういうことかというと、親鸞聖人のこの三首のご和讃を根拠に、
 一番最初は、久遠実成、本師本仏の阿弥陀仏。
 二回目は、法蔵菩薩と成り下がって世自在王仏の身元で、五劫思惟(しゆい)、兆載永劫(ちょうさいようごう)のご修行をしてくださった阿弥陀仏。
 そして、第十八願の「若不生者、不取正覚」が三度目の成仏。
ということですが、なんのことやらサッパリ分からない人が多いと思います。仏教の基本的知識があれば、多少は分かるかもしれませんが、そのみ心は私も分かりません。

それが、今、ここで、私が南無阿弥陀仏のおいわれを頂いた時に、疑いなく知らされるそうです。

繰り返し聞かせていただくことが大切なのではないかと思います。
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【本】増井悟朗 / 念仏の雄叫び (前半)

1週間ほど経ってしまいましたが、5月21日(グレゴリオ暦)は親鸞聖人ご生誕の日でした。親鸞聖人といえば、歴史の教科書でも有名だと思いますが、念仏と、切っても切り離せない関係があります。

何の不思議か、浄土真宗のお話を聞かせて頂くようになって今年で17年目になります。ところが、この15年以上を振り返ってみると、念仏をおろそかにしてきたように思います。いや、「念仏」ではなく、「お念仏」です。まことに勿体ないことであります。南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏、、、(-人-)

反省してみるに、それは恐らく、蓮如上人のこのご教導を厳しく聞かせて頂いてきたからでしょう。
世間に沙汰するところの念仏というは、ただ口にだにも南無阿弥陀仏と称うれば助かる様に皆人の思えり。それは覚束(おぼつか)なきことなり。
(『御文章』三帖目第二通)
世の中に人のあまねく心得おきたるとおりは、ただ声に出して南無阿弥陀仏とばかり称うれば、極楽に往生すべきように思いはんべり。それは大きに覚束なきことなり。
(『御文章』三帖目第四通)
まず、世間にいま流布して、旨と勧むるところの念仏と申すは、ただ何の分別もなく、南無阿弥陀仏とばかり称うれば、皆助かるべきように思えリ。それはおおきに覚束なきことなり。
(『御文章』三帖目第五通)
人によっては、現世利益や魔除けのお祈り、まじないのようなものが念仏だと思われているかも知れませんが、それならば「念仏称えていても助かりませんよ」ということになるでしょう。

しかし、
ただ声に出して念仏ばかりを称うる人は、おおようなり。それは極楽には往生せず。この念仏の謂れを、よく知りたる人こそ、仏には成るべけれ。
(『御文章』三帖目第三通)
お念仏の、おいわれを知ることが大切だと蓮如上人は言われています。



『念仏の雄叫び』と題された本書は、この「念仏の謂れ」が平易な言葉で説明されており、読ませていただくとお念仏を称えたくなる、有難~~い1冊です。

祈願請求の念仏ではなく、「こんな愚かな自分がよくもこれだけ恵まれて生かされるものぞ」と、感謝、喜びから称えずにおれないお念仏。

他力不思議の境地、み仏のお慈悲を、分からないなりにも感じさせて頂いた気がします。

思いやりの心とか、優しさとか、穏やかな気持ちが芽生え、まっすぐな生き方を望むようにもなります。

世界平和を訴えたり、自殺者の増加を嘆く人が読んだら心に響くのではないでしょうか。

気づいたら、猛スピードで、数時間、打ち込んでいました。長くなるので、2回に分けてご紹介します。誤字などありましたらお知らせください。

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